株式会社エリジオン

連載記事

金型製作における「キャメスト」の活用(2/2)
〜大田区工業団地での導入事例」〜
(「型技術 2008年6月号」掲載)

  キャメストは、「簡単・低価格・高性能」を特長とする加工現場向けの2次元CAMである。“2次元ツールでの3次元データ活用”をコンセプトとしており、2008年4月7日にベースモジュールとなる2D CAD・マシニング 2D CAM・穴加工 CAM・ワイヤー放電 CAM・NC チェッカーをリリースした。将来的には、キャメストが加工現場への3次元データの導入口となり、設計/製造のあらゆるプロセスにおいて3次元データが活用されることを目指す。この構想は、製品メーカー(OEM)だけではなく、日本のものづくりを支えている多くの機械加工メーカーの競争力向上に寄与することを主眼としている。

 前回は、キャメストの開発背景や製品機能など全体像について述べたが、本稿ではユーザーの現状や導入事例を交えるなど、より具体的にキャメストを紹介していく。

■加工現場を取り巻く現状
 近年、経済のグローバル化による海外生産拡大に伴い、中国など新興諸国の台頭が著しい。日本の機械加工メーカーも、価格競争力の差や企業の現地調達ニーズの高まりから、新興諸国メーカーに受注を奪われつつある。このことは、日本のものづくりの要である金型でさえ例外ではない。これまで、金型は高い品質が求められるため現地では量産のみを行っており、“打つのは現地、型は日本”というのが一般的であった。しかし、現在では新興諸国の技術力が高まってきたこともあり、“打つのは現地、型も現地”というケースも決して珍しくない。

 この状況に対して、日本の機械加工メーカーが海外進出することで、低価格・現地調達を実現するという対策が考えられる。しかし、日本の機械加工メーカーのほとんどは中小企業であるため、資金調達・人材獲得・情報収集などの困難さを考えると、実行に移すことは難しい。したがって新興諸国メーカーに対抗するには、日本の機械加工メーカーの強みである高品質・短納期化を今まで以上に推し進めることが重要となる。特に、製品のライフサイクルが短くなっている現代において、発注元からの高品質・短納期要求に応えられることは、高い競争力に繋がる。

 今まで以上の高品質・短納期化を実現する上で、生産設備はもちろんのこと、CAMシステムの果たす役割も大きい。しかし、ITへの投資対効果が厳しく問われる昨今、CAMの追加導入は容易ではない。CAMを導入するための購入費だけでなく、保守費やオペレーターの教育費なども考慮すると、導入に踏み切ることは難しい。そのため現在、機械加工メーカーの投資の関心はIT(ソフトウェア)ではなく、主に工具や工作機械(ハードウェア)へ向けられている。しかし、ハードウェアとソフトウェアは車の両輪であり、投資のバランスが重要である。投資した工具や工作機械の性能を十二分に活かすためにも、現場のニーズに即した投資対効果の高い“道具”としてのCAMが求められている。

■キャメスト活用の提案
 一口にCAMと言っても、
  @ フィーチャー認識など独自機能を持つもの
  A 特定メーカーの工作機械向けに特化したもの
  B 特定加工方法に特化したもの
  C オールインワンのもの
などそれぞれ特徴を持つ。そのため、予算と用途に合わせてCAMを使い分けることが重要であるが、3次元CAMと2次元CAMの使い分けは意外に見過ごされやすい。

 3次元CAM は、自由曲面などの複雑な形状を加工する場合は有効であるが、その反面、シンプルな形状を加工する場合にはどうしてもオペレーションが煩雑になってしまう。2次元もしくは2次元と断面の定義で事足りる形状に関しては、2次元形状に加工指示を行うほうが、手軽に速くNCデータを作成できる。何もかもを3次元CAMで行うのではなく、2次元CAMを十分に活用することで、より効率的な加工指示が可能になる。2次元CAMは手打ちや自動プロの代替手段としてだけではなく、3次元CAMの2軸加工機能の補完手段としても、生産性向上に寄与するツールなのである。そのため、2軸加工において今まで以上の高品質・短納期化を実現するためには、投資対効果の高い2次元CAMが必要とされる。

 上記ニーズに応える2次元CAMとして、弊社製品キャメストを提案したい。
 キャメストは、「簡単・低価格・高性能」を特長としており、少ない投資で確かな効果を期待できる。“初めてCAMを購入する場合”や“低コストでCAMを追加導入したい場合”には特に適しているCAMである。

(1) 圧倒的な低価格
 (a) 導入コストが安い
 2D CAD(58,800円)・ マシニング2D CAM(149,100円)・穴加工 CAM(149,100円)・ワイヤー放電 CAM(149,100円)・NC チェッカー(58,800円)と導入しやすいリーズナブルな価格体系を実現している。

 (b) ランニングコスト“ゼロ”で運用可能
 キャメストでは、
  ・マイナーバージョンアップ版の提供
  ・キャメストの操作に関する“E-mailによる質問”への回答
  ・技術代理店の紹介
を無償サポートとして提供しているため、ランニングコストをかけずに運用することが可能である。また、初めてCAMを購入し、操作の習得に不安がある方のために、
  ・キャメストの操作に関する“電話・FAXによる質問”への回答
も有償サポート(年間19,950円)として提供している。
※技術代理店による有料の訪問講習も可能である

 (c) オペレーターの教育費用を抑えられる
 CAMを導入する際、意外にコストがかかるのがオペレーターの教育費用である。各ベンダーも講習会などのサービスを用意してはいるが、CAMの操作は一朝一夕で覚えられるものではない。特に普段コンピュータに慣れ親しんでいない場合、習得にはかなりの時間を要する。そのためキャメストでは、
  ・ユーザーインターフェースに絵や図を多用(図1)
  ・ポストファイルや工具テーブルなど、実用的なサンプルを豊富に搭載
  ・加工現場の方が理解しやすいパラメーター設定(図2)
  ・NCデータ作成までのオペレーションの回数が少ない
など、様々な工夫を凝らしている。これらの工夫により、初心者でもすぐに簡単にNCデータを作成できるようになる。また、操作方法を忘れてしまったとしても、すぐに思い出すことが可能だ。

図1. 初心者でも分かりやすい解説画面

図2. 現場が分かりやすいパラメーター設定


(2) 確かな生産性向上
 CAMを導入したからには、加工全体に寄与するレベルの時間短縮を実現するか、もしくはノウハウ共有や作業の属人化防止などの効果をもたらさなければならない。しかし、機械側で調整する時間は確かに短縮したが、それ以上にCAMでの加工指示の時間が増えているというパターンに陥りやすい。

 キャメストでは、開発者自ら現場に出向くなど現場の生の声を反映した機能開発を行っており、言うなれば“適正性能”を目指している。キャメストは、「日本で」「自社開発」しているので、日本の現場のニーズをタイムリーに反映させることができる。この開発体制により、加工現場に確かな生産性向上をもたらすことが可能だ。

■導入事例紹介
 続いて、実際にキャメストを活用した事例を紹介する。本稿では、大田区の工業団地に所在地をもつ東京金属工業株式会社様と近江金型製作所様の導入事例を取り上げる。

(1) 東京金属工業 株式会社
  〒143-0003
  東京都大田区京浜島2-13-10
  TEL:03-3790-2929
  FAX:03-3790-2888

 同社は、精密プレス金型の設計/製作からプレス/タッピング加工に至るまで、一貫した生産を行っている。プレス加工では不可能とされてきた製品にも積極的に取り組むなど、高い技術力に定評がある。「あたりまえの事をあたりまえにやる」を念頭に置き、持久力のある金型製作を信念としており、平成18年度には大田区「優工場(*1)」に認定されている。

(*1) 優工場http://www.pio-ota.jp/pr/41_yukojo.html
人に優しい(働きがいのある労働環境)、まちに優しい(周辺環境との調和)、経営や技術に優れた工場を認定する制度


 同社では、ワイヤー放電加工のプログラム作成にCAMを用いていたが、ミーリング加工や穴加工に関しては、手打ちでプログラムを入力していた。同社生産技術部の中島隆裕氏は「金型製作工程を考慮した上で、手打ちが最も効率的と判断していました。その上、加工が専門である自分ではどのCAMが自社に一番合っているかを判断できなかったので、興味はあっても、1台数百万円もするCAMの追加導入は躊躇せざるを得ませんでした。」と語る。

 中小企業では、必ずしもIT専門の部署があるわけではなく、また、経営・設計・製作など担当業務が多岐に渡るため、ソフトウェアの調査に時間をかけることは難しい。そのため“自社に適当なソフトウェアを選ぶことができない”という共通の悩みを抱えている。今回同社では、懇意にしている技術商社にCAM導入に関して相談し、キャメストの紹介を受けた。そして、技術商社からの強い勧めもあり、更なる短納期化を目指してキャメストの導入に至ったのである。「価格の低さが何よりも魅力でした。体験版で操作がそれほど難しくないと感じていましたし、いざとなれば技術商社に質問もできるので、それほど心配はしていませんでした。」と、中島氏は導入の決め手を振り返る(上記写真)。

 キャメスト導入以前、同社は穴加工のプログラムを手打ちで入力するために、全ての穴の座標値をCADから抽出し、紙に書き出すという作業を行っていた。プレートの穴の総数は、少なくても数十個、多いときには数百個にも上る。人間の手によるものなので、当然ミスが起きる可能性があり、非常に神経を使う作業であった。それと同様にミーリング加工でも、CADで作図した図面から全ての座標値を紙に書き出していた。

 中島氏は、
「今までは、穴の座標値を紙に書き出すのに1時間程度かかっていたので、その作業がなくなり助かっています。加工全体からすればそれほど大きな時間ではありませんが、他の仕事に取り組める時間が増えたことに意味があると思っています。また、自分が穴加工手順を一度設定しておくことで、他の人も自分と同じ手順で加工を行えるようになったことは大きな成果の1つです。」
「CADで作図した場合、いくつかの寸法が重なっていて非常に読みづらいことがあります。自分で作図したものであれば寸法を間違えることはほとんどありませんが、他の人が加工を担当する場合には気をつけなければなりませんでした。キャメストを導入することで自分以外の人も簡単に加工指示ができるようになり、仕事にかなり余裕ができました。キャメストを導入した今では、ミーリング加工のプログラムを手打ちで入力していた時間が負担になっていたことは否めません。」
とキャメスト導入の効果を語る。

 また、「ドライランにおける確認作業においても時間短縮の効果がありました。プログラムを手打ちで入力する場合は、入力ミスが無いかを確かめるために、ドライランの際に座標値をしっかりと確認する必要があります。しかし、キャメストのNCチェッカーを導入することで、動きを簡単に確認し、高さ方向の間違いだけに注力すれば良くなりました。」と同社生産管理部中島邦裕氏は語った。

<今後の課題>
 キャメストでは、DXF・DWG(共にR12から最新版まで対応)・IGES・NC文などのインポートができる。しかし、同社では発注元から支給されたデータをもとにCADで作図を行っていなかった。「手元に届く前に3次元データから2次元データに変換されているためか、寸法値と座標値の整合性がとれていないことがよくあります。そのため、面倒ではありますが、図面を正としてCADで1から作図をしています。」と中島(隆)氏は我々に語った。同社の事例から、製品メーカーの設計工程で作られた3次元データを、上手く加工現場へと流通させることの必要性を再確認した。弊社のコアコンピタンスであるデータ変換技術を用いて、キャメスト上で3次元データを簡単に活用できる製品を提供していきたい(図3)。

図3. エリジオンのデータ変換技術


(2) 近江金型製作所様
  〒143-0015
  東京都大田区大森西3-11-2
  TEL:03-3766-1735
  FAX:03-3766-1827

 同社は、家電製品部品の型設計と製作を手がけており、創業当時から型構造に創意工夫をこらし、丁寧な仕事を行うことを売りにしている。納期厳守をモットーとしており、発注元からの信頼も厚い。

 同社では、ワイヤー放電加工のプログラム作成を、紙図面をもとに自動プロで行っていた。CAMの導入に関して、「便利そうだとは思っていましたが、上手く使いこなせるか確信が持てなかったので、中々CAMを導入できませんでした。高価なCAMを買ったものの、結局使いこなせなかったという同業者を多く見ていたので、正直CAMの営業の話も半信半疑で聞いていました。」と同社代表の神永貴朗氏は言う(上記写真)。結局、発注元の短納期要求に応えるために、同社がCAMの導入に踏み切ったのは2005年になる。「従来の手法であれば丸1日かかっていた作業が、CAMを使うことで、半日程度で終わるようになりました。これだけ効果があるのなら、もう少し早く導入を検討すれば良かった。」と神永氏は振り返る。

 2008年4月、CAMの操作にも慣れた同社はより使いやすいCAMの導入を検討し、キャメストを採用した。神永氏は、「体験版を使ってみて、操作性が良く自分に合っていると感じました。また、上下異形状に対応しているにも拘わらず、ワイヤー放電CAMの価格が安かった点も魅力でした。」とキャメスト導入の理由を語る。

 神永氏にキャメストの良さを伺ってみると、
「一筆書き機能や補助線機能などによって作図の手間が省けるので、使っていてストレスをあまり感じません。」
「以前使っていたCAMよりも要素数やレイヤー数が多いので、お客様からの支給データを活用できる機会が増えました。」
「オープン加工、コアレス加工などワイヤーカットの加工パターンが多いのが嬉しいですね。特に、切り落としのタイミングを設定で簡単に変えられるのがとても便利です(図4)。」
など、まだ導入後間もないにも拘わらず、いくつもの答えを返していただいた。

図4. 切り落としのタイミングも設定可能

<今後の課題>
 本インタビューの中で、神永氏から“2次元のCAD図から3次元モデルを作成する機能が欲しい”との要望を受けた。「短納期要求に応えるために型を修正する時間があまりないので、とにかくミスはできません。図面の場合は、どうしても些細なことを見落とす心配がありますが、実際にモノを作ってみれば見落としに気づくことが出来ます。やはり、視認性という点においては2次元よりも3次元の方が優れていると思います。」と神永氏は言う。弊社の形状処理技術を活かし、3Dto2Dだけではなく2Dto3Dの開発にも将来的に取り組んでいきたい(図5、図6)。
図5. エリジオンの形状処理技術例(CADモデルの簡略化)

図6. エリジオンの形状処理技術例(ポリゴンモデルからサーフェスモデルの作成)

* * * * * * * * *

 今後リリース予定の製品は、マシニング 2.5D CAMと旋盤 CAMである。先日INTERMOLD2008に出展した際にも多くのご要望をいただいており、現在開発を進めている(図7)。

 日本で自社開発しているという弊社の強みを生かし、今後ともユーザーの声をタイムリーにキャメストへ反映させていきたい。

図7. INTERMOLD2008出展時の様子